プライバシー権

最大判44年12月24日(京都府学連事件)

事実の概要

学生デモに参加していた被告は、その最中に警官に写真撮影を行われたので、その撮影を妨害しようとして、公務執行妨害・傷害で起訴された。これに対し、被告は、本件撮影についてプライバシーの侵害だと主張した。

結論

被告の上告棄却、有罪確定

①肖像権と称するかどうかは別として、何人もその承諾なしにみだりにその容貌等を撮影されない自由を有する。

②警察官は正当な理由がなければ、個人の容貌などを撮影することは、憲法13条に基づき、許されない。その時、犯人以外の第三者が写真に含まれていても許容される場合がありうる。

③(ⅰ)現に犯罪が行われ、またはその後間がない場合であって、

(ⅱ)証拠保全の必要性及び緊急性があり、かつ

(ⅲ)その撮影が一般的に許容される限度を超えない相当な方法で行われるなら、

令状がなくても撮影が許される。

④本件の撮影は、合法である。

 

※(ⅰ)(ⅱ)(ⅲ)の3つの条件すべてそろえる必要がある。

 

 

最判昭和56年4月14日(前科照会事件)

事実の概要

原告についての前科犯罪歴を京都市中京区長が弁護士の照会に応じて回答したことを違法として、原告が京都市に対して国家賠償請求訴訟を起こした。   

(当時、原告は会社と解雇について争訟中で、会社側の弁護士が弁護士会を通じて区長に原告の前科犯罪歴を照会したことが発端となった。これにより原告は経歴詐称として解雇された。)

結論

被告(京都市)の上告棄却、原告勝訴

①前科等のある者はこれをみだりに公開されないという法理上の保護に値する利益を有する。(人の名誉・信頼にかかわるから)

②弁護士法23条に基づく前科等の照会は格別の慎重さが要求される。

③中央労働委員会、京都地方裁判所に提出するという目的だけで、漫然と照会に応じ、犯罪の種類、軽重を問わず前科等のすべてを報告することは、公権力の違法な行使に当たる。

 

〈備考〉③によると、目的に応じた犯罪の種類の前科等であれば、照会に応じることは許されそうです。どの程度目的に合致していれば良いかは不明なところがあります。

 

 

最判平成15年9月12日(早稲田大学江沢民江沢民講演会事件)

事実の概要

大学主催の講演会に参加を申し込んだ学生である原告らの氏名・住所等が書かれた参加者名簿の写しを、大学が原告らの同意を得ないまま警察に提出した。原告は、プライバシー権侵害による損害賠償等を求めて、大学を訴えた。

(本件個人情報=学籍番号、氏名、住所と電話番号)

結論

原告らの請求を棄却した原審について破棄差戻しした。

①本件個人情報は、秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではない。

②しかし、そのような情報であっても、自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることへの期待は保護されるべきものである。なので、法的保護の対象となる。

③本件個人情報を原告らの同意なく開示したことは、原告らの任意に提出したプライバシーにかかる情報の適切な管理という合理的な期待を裏切るもので、プライバシーの侵害として不法行為となる。

自己決定権の侵害

最判平成元年12月14日(どぶろく裁判)

事実の概要

無免許で清酒を自家製造した被告人は、酒税法違反で起訴され、有罪となった。原告は、自家用の酒を造り楽しむことは憲法第13条の幸福追求権により保障されており、また、立法府の裁量を超えるとして31条にも反すると主張した。

結論

被告人の上告棄却

①本件の酒税法の規定は、自己消費を目的とする酒類製造であっても、放任すれば酒税収入が減少し、国の重要な財政収入を確保できない恐れがあるので、免許制としたものである。

②自己消費目的の酒類製造の自由が制約されるとしても、立法府の裁量権を逸脱し、著しく不合理であることが明白であるとは言えない。

 

〈備考〉酒を造り楽しむ権利は憲法上保障される権利か否かは、言及されていない。

 

 

最判平成12年2月29日(エホバの証人不同意輸血事件)

事実の概要

原告の妻はエホバの証人の信者で、いかなる場合にも輸血は一切拒否するという信念を持っていた。

その旨を入院する際に病院側に伝えていたが、その後の手術の際、輸血以外に救命の可能性は少ないと判断した医師によって輸血がなされた。

そして、原告の妻の死亡後、医師を相手取って精神的苦痛を慰謝する損害賠償を請求した。

結論

2審で原告の請求一部認容、被告の上告と原告の付帯上告棄却

①自己の宗教上の信念に反するとして、輸血を伴う医療行為を拒否するというような意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重される。

②いかなる場合にも輸血を拒否する患者に対し、病院側は輸血拒否の意思を尊重しつつも他に救命手段がない場合には輸血をする方針を取っていることを説明しないまま手術を行った。

③医師らは、その方針を説明して、患者自身の意思決定に委ねるべきであった。

④よって、医師らは人格権を侵害したとして、精神的苦痛に対し、慰謝すべき責任を負う。

憲法の私人間効力

最判昭和48年12月12日(三菱樹脂事件)

事実の概要

三菱樹脂株式会社に就職した原告は、入社試験時に学生運動歴を隠して報告を行ったとして、3か月の試用期間後、本採用を拒否された。そして、雇用契約上の地位保全の仮処分と賃金支払いを求めて訴えた。

結論

①憲法は私人間には直接適用されない。国または公共団体と個人との関係を規律するものである。

②私人間への類推適用もされない。私人間の関係においても優位者と劣位者という支配関係が成り立っている場合があるが、これは法的裏付けのない社会的事実としての力関係に過ぎず、国等の支配が権力の法的独占に基づいて行われる場合とは性質上の相違があるから。

③しかし、民法1条や90条などの規定の適切な運用によって、憲法を間接適用することはできる。

 

④経済活動の自由の一環として契約締結の自由があるため、企業者が誰をどんな条件で雇うかは、原則として自由に決定できる。

⑤そして、企業者は労働者の採否決定に当たり、思想信条を調査し、これに関連する事項についての申告を求めることは、違法行為とならない。

⑥以上のことから、企業者が特定の思想信条を有することを理由として雇い入れることを拒んでも、当然に違法とはならない。

 

 

最判昭和49年7月19日(昭和女子大事件)

事実の概要

大学生であった原告は、学校に対して無届、無許可で政治団体に加入し、政治運動に参加したため、大学の定める生活要録に違反したとして自宅謹慎となり、退学処分となった。そして、教育を受ける権利や表現の自由など、憲法の定める自由権保障規定に生活要録が違反するとして、学生たる身分確認請求訴訟を提起した。

結論

原告の上告棄却

①最判昭和48年12月12日(三菱樹脂事件) の結論の①②の通りなので、本件の私立大学の学則である生活要録が直接憲法の規定に反するかどうかを論ずる余地はない。

②大学は校風、教育方針などについて独自性を有しているため、国、公、私立を問わず、合理的な範囲で学生の政治活動に対し、かなり広範な規律を及ぼしても不合理な制限とは言えない。

③学生は大学の校風や教育方針を承知の上で入学するのであるから、大学側はそれらを学則で具体化し実践することが当然認められるべき。

④また、学長による本件の退学処分は懲戒権の裁量の範囲内にある。

 

 

最判昭和56年3月24日(男女差別定年制事件)

事実の概要

原告の勤務する会社は当初男女ともに55歳が定年であったが、吸収合併されたことによって、男子55歳、女子50歳とする会社となった。 

そして、50歳の定年となった際に、会社に対し地位保全を求め提訴。

結論

被告(会社側)の上告棄却

①会社の職種や高齢女子労働者の労働能力、賃金などの点から考えて、定年年齢において女子を差別しなければならな合理的理由はない。

②つまり、本件の就業規則の定年年齢を定めた部分は、もっぱら女子であることを理由として差別したことになるから、性別のみによる不合理な差別として民法90条により、無効である。