憲法の私人間効力

最判昭和48年12月12日(三菱樹脂事件)

事実の概要

三菱樹脂株式会社に就職した原告は、入社試験時に学生運動歴を隠して報告を行ったとして、3か月の試用期間後、本採用を拒否された。そして、雇用契約上の地位保全の仮処分と賃金支払いを求めて訴えた。

結論

①憲法は私人間には直接適用されない。国または公共団体と個人との関係を規律するものである。

②私人間への類推適用もされない。私人間の関係においても優位者と劣位者という支配関係が成り立っている場合があるが、これは法的裏付けのない社会的事実としての力関係に過ぎず、国等の支配が権力の法的独占に基づいて行われる場合とは性質上の相違があるから。

③しかし、民法1条や90条などの規定の適切な運用によって、憲法を間接適用することはできる。

 

④経済活動の自由の一環として契約締結の自由があるため、企業者が誰をどんな条件で雇うかは、原則として自由に決定できる。

⑤そして、企業者は労働者の採否決定に当たり、思想信条を調査し、これに関連する事項についての申告を求めることは、違法行為とならない。

⑥以上のことから、企業者が特定の思想信条を有することを理由として雇い入れることを拒んでも、当然に違法とはならない。

 

 

最判昭和49年7月19日(昭和女子大事件)

事実の概要

大学生であった原告は、学校に対して無届、無許可で政治団体に加入し、政治運動に参加したため、大学の定める生活要録に違反したとして自宅謹慎となり、退学処分となった。そして、教育を受ける権利や表現の自由など、憲法の定める自由権保障規定に生活要録が違反するとして、学生たる身分確認請求訴訟を提起した。

結論

原告の上告棄却

①最判昭和48年12月12日(三菱樹脂事件) の結論の①②の通りなので、本件の私立大学の学則である生活要録が直接憲法の規定に反するかどうかを論ずる余地はない。

②大学は校風、教育方針などについて独自性を有しているため、国、公、私立を問わず、合理的な範囲で学生の政治活動に対し、かなり広範な規律を及ぼしても不合理な制限とは言えない。

③学生は大学の校風や教育方針を承知の上で入学するのであるから、大学側はそれらを学則で具体化し実践することが当然認められるべき。

④また、学長による本件の退学処分は懲戒権の裁量の範囲内にある。

 

 

最判昭和56年3月24日(男女差別定年制事件)

事実の概要

原告の勤務する会社は当初男女ともに55歳が定年であったが、吸収合併されたことによって、男子55歳、女子50歳とする会社となった。 

そして、50歳の定年となった際に、会社に対し地位保全を求め提訴。

結論

被告(会社側)の上告棄却

①会社の職種や高齢女子労働者の労働能力、賃金などの点から考えて、定年年齢において女子を差別しなければならな合理的理由はない。

②つまり、本件の就業規則の定年年齢を定めた部分は、もっぱら女子であることを理由として差別したことになるから、性別のみによる不合理な差別として民法90条により、無効である。