目次(憲法判例要約)

9条関連の判例(1)  恵庭事件・長沼事件・百里基地訴訟

 

9条関連の判例(2)  砂川事件

 

法人の人権  八幡製鉄事件・南九州税理士会政治献金事件

 

外国人の人権  地方自治での定住外国人の選挙権・マクリーン事件・塩見訴訟

 

公務員の人権  猿払事件

 

被収容者の人権  喫煙禁止違憲訴訟・よど号ハイジャック記事抹消事件

 

憲法の私人間効力  三菱樹脂事件・昭和女子大事件・男女差別定年制事件

 

プライバシー権  京都府学連事件・前科照会事件・早稲田大学江沢民講演会事件

 

自己決定権の侵害  どぶろく裁判・エホバの証人不同意輸血事件

 

 

被収容者の人権

最大判昭和45年9月16日(喫煙禁止違憲訴訟)

事実の概要

公職選挙法違反で逮捕され、勾留されていた原告は、その間喫煙を禁止されていた。そして、多大な精神的肉体的苦痛を受けたとして、国に損害賠償請求した。

結論

原告(被収容者)の上告棄却、原告の敗訴確定

①監獄内においては秩序を維持するよう配慮する必要があるため、その目的に照らし、合理的制限を加えることもやむを得ない。

②合理的な制限かどうかは、制限の必要性と制限される基本的人権の内容、具体的制限の態様を較量して決するべき。

③喫煙の自由が基本的人権の一つに含まれるとしても、タバコは生活必需品までとはいかず、嗜好品にすぎないため、あらゆる時、場所において保障されなければならないものではない。

④本件の制限は、必要かつ合理的な制限である。

 

 

最判昭和58年6月22日(よど号ハイジャック記事抹消事件)

事実の概要

よど号ハイジャック事件に際して、未決拘留中の原告らに報道の内容が伝わらないようにするため、関係記事を抹消した新聞しか読ませなかった。そして、拘置所長の当該処分違法であるとして訴えた。

(当時、原告らは国際反戦デー闘争、佐藤首相訪米阻止闘争に参加し、凶器準備集合罪等で勾留、収容されていた。

結論

原告(被収容者側)の上告棄却、原告の敗訴確定

①憲法19条、21条により新聞紙、書籍などの閲読の自由はある。しかし、公共の利益のための必要から、一定の合理的制限を受けることがあるかもしれない。

②監獄内の規律、秩序の維持に放置することができない程度の障害が生ずる相当の蓋然性がある場合には、合理的な範囲で閲読の自由を制限できる。

③②についての判断は、具体的状況の下で監獄の長の裁量判断による。今回は適法。

公務員の人権

最大判昭和49年11月6日(猿払事件)

事実の概要

非管理職である被告 (郵政事務官で同地区労働組合協議会事務局長) は衆議院選挙の際、選挙用ポスターを張るなどしたことにより、人事院規則に反するとして、国家公務員法の処罰規定より罰則を受けた。それに対し、

①政治活動の禁止は、表現の自由を認める憲法21条に反しないか、

②政治活動の制限、禁止規定が、公務員の職種に関係なく一律に適用されるのは許されるのか、

③国家公務員法の罰則規定は制裁として相当性を欠き、憲法31条に反しないか、

④処罰の対象となる政治的行為を定めることを、人事院規則に委任することは合憲か、

と被告は主張した。

結論

1審2審で被告無罪となるも、最高裁の破棄自判により罰金5000円

①に関しては、公務員の政治的中立性を損なう恐れのある行動を禁止しているだけで、それ以外の行為により意見を表明することができる。

②に関しては、政治的中立性を損なう行為の禁止と、公務員の政治的中立性を保つという禁止目的とは合理的な関連性があり、職種等を区別することなく禁止するとしても、この合理的な関連性が失われるものではない。

③に関しては、国家公務員法の罰則規定は、保護法益の重要性を考えると、罰則規定に対する立法機関の決定が裁量の範囲を逸脱していない。

④に関しては、国家公務員法は人事院規則に罰則規定となる政治的行為を定めることを委任するものであると理解できる。そして、そのように定められた政治的行為は、違法性を帯びるものであるから、憲法の許容する委任の限度を超えることにならない。

 

〈備考〉公務員の政治活動について、特定の候補者の当選を目的とする選挙運動を行うことは禁止されていますが、特定の政党に加入することは禁止されていないようです。