以下の判例は自衛隊の合憲性に関するものですが、結論からいうと、どの判例も自衛隊の合憲性について憲法判断を回避しています。
札幌地判昭和42年(恵庭事件)
事実の概要
自衛隊の演習場付近で酪農を営む兄弟が砲・爆撃音について抗議に行った帰途に、通信線をペンチで切断し、自衛隊法121条違反で起訴された。兄弟側は自衛隊は憲法違反で、自衛隊法は違憲ではないかと主張した。
結論
被告人(兄弟)は無罪
①本件の通信線は121条にあるその他防衛の用に供する物にあたらない。よって、無罪。
②①で結果は出ているので、自衛隊についての合憲性は判断しない。
札幌地判昭和48年(長沼事件)
事実の概要
北海道長沼町で、ミサイル基地が設置される案に反対する原告らが、基地建設のための国有保安林の指定解除処分を違憲として出訴
結論(地裁)
請求認容。ただし、国側控訴
①保安林を処分すれば、洪水などの危険性があり、地域住民の平和的生存権がされる可能性がある。
②ミサイル基地が設置されれば、有事の際に攻撃目標とされうるので、平和的生存権が侵害される危険がある。
③(本件が司法審査可能であることについて) 国家権力が憲法秩序の域を超えて行使され、重大な違反の状態が発生している疑いが生じ、かつ、国民の権利が侵害され、または侵害される危険があると考えられる場合において、憲法問題以外の当事者の主張でその訴訟を終局させたのでは、根本的な解決にならないのなら、憲法適合性を審理判断する義務がある。本件については司法審査の対象となる。
④戦争目的に転化できる人的、物的手段としての組織体は、憲法9条2項にいうその他の戦力に該当し、憲法違反となる。自衛隊は、「外敵に対する実力的な戦闘行動を目的とする人的、物的手段としての組織体」と認められるので、違憲な存在。よって、関連する防衛庁設置法、自衛隊法などは効力を有しえない。
結論(最高裁)
上告棄却。しかし、原告の敗訴確定。
①地裁の①について、洪水等の危険性は代替施設の設置によって解消されたのであれば、原告の訴えの利益は消失している。
②地裁の②についての平和的生存権の侵害は指定解除処分の取消訴訟の原告適格を基礎づけるものにならない。
〈備考〉 自衛隊の合憲性についての憲法判断は回避。
水戸地判昭和52年(百里基地訴訟)
事実の概要
①航空自衛隊百里基地の予定地をもともと所有していた原告は、基地反対派の住民たる被告と土地売買契約を結んで、所有権移転の仮登記までしていた。
②しかし、トラブルがあり、原告は防衛庁にこの土地を売った。
③原告は①の契約解除を主張し、仮登記の抹消などを求めた。
④被告側は自衛隊の違憲を主張
結論(地裁)
原告の請求認容。被告側控訴
①9条1項は侵略戦争の放棄、2項はそのための戦力保持を禁止したものであり、自衛戦争は禁止されていない。
②統治行為論により、一見極めて明白に違憲無効と認められなければ、司法審査の対象とならず、当時の自衛隊は9条2項にいう「戦力」に当たるかどうかは司法審査の対象とならない。
③よって、旧自衛隊法、旧防衛庁設置法は違憲無効と断ずることはできない。
結論(最高裁)
被告側の上告棄却。確定
①原告と国側の本件土地売買は、公権力を行使して法規範を定立する国の行為に当たらないため、憲法98条1項に反しない。
②平和的生存権は私法上の行為の効力の判断基準にならない。
③憲法9条は私人間に直接適用されない。
④本件土地売買は公権力の発動たる行為といえるような特段の事情はないので、9条の適用を受けず私法でのみ判断される。